名だたる生産者たちならば村名クラスでさえ1万円超え、まさに豪華絢爛という言葉がぴったりなブルゴーニュワイン。そんなワイン界の“高嶺の花”に今、異変が起きているという。
今回は「VinVoyage」開講を記念して、日本人初のブルゴーニュワイン・エデュケーターである、楠田卓也さんに実際のお届けワインを試飲していただきながらお話を聞いた。
楠田卓也(Takuya Kusuda)
アカデミー・デュ・ヴァン東京主任講師、青山校、大阪校、名古屋校講師 HPはこちらオンラインワインショップ サロンクスダ運営 HPはこちら
BIVBブルゴーニュ委員会公認ブルゴーニュワイン エデュケーター
IWCインターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドン 日本酒共同審査委員長、ワイン審査員 HPはこちら
雑誌「ワイン王国」元副編集長
深山由佳(Yuka Miyama)
大学卒業後、外資系大手コンサルティング会社に10年ほど勤めた後、ワインの道に転身することを決意し、フランスのブルゴーニュに渡る。フランス滞在中は国立農業専門学校と国立ブルゴーニュ大学において、ブドウ栽培や醸造学の基礎からブルゴーニュの歴史や土壌学などを学び、ワイン関係者や愛飲家向けのエノ・ツーリズムを企画し延べ300軒以上の生産者を訪ねる。2020年ワイン輸入とワイン産地の旅をテーマとする会社を設立。ユカセレクション Yuka Selections HPはこちら
今ブルゴーニュで何が起きているのか?
まずコメントいただいたのはこちらの白ワイン、サン・ロマン ペリエール2018。サン・ロマン村はコート・ドール南部の目立たない生産地だが、最近にわかに注目を浴び始めているという。
楠田:うまい!これ好き!
膨らもうとするワインの柔らかさとか厚みの上に、石灰を思わせるキュッと細くなる伸びやかな酸味がとても心地良い。2018年という熱波の年とはとても思えない。
アルコール度数は12.5%にちゃんと抑えてあるけど、そこに熟した果物の豊かさと厚みがちゃんと入っている。
サン・ロマンは近くの有名産地ムルソーよりも標高が高い涼しい生産地。
気候のおかげで、ともすると悪い意味でシャブリみたいな酸っぱくて薄いワインになりがちなんだけれども、このワインは見事にその涼しさを味方につけている。
最近のピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェの1万円を超えるものよりもぐっと質がいいですね。
サン・ロマンは今が買いのアペラシオン
(このワインの値段は)6,300円と、高いように思われますが、僕はバーゲン価格だと思います。むしろこの品質ならばサン・ロマンの平均よりも高くないとおかしい。
今、ブルゴーニュワインは全体的に値段が上がりすぎていて、有名生産地は手が届かない存在。
そんな中、ブルゴーニュワインらしい良さを持ったワインを適正な価格で手に入れたいと思ったら、サン・ロマンのようなマイナーなアペラシオンをあたるのが正解。
しかし情報が少ない分、予備知識があり、かつテイスティングして見極める能力がないと選ぶのが難しいのがネックです。
2015年以降シャブリが変わった
お次はシャブリ グラン・クリュ ブークロ。シャブリというと、軽い果実と口をすぼめるような鋭角な酸という印象をお持ちの方も多いだろう。しかし、それは今や昔、全く様変わりしているという。
楠田:これは口にした時、え?これがシャブリ?と思う人がいるかもしれませんね。
昔は果実の中でも柑橘のニュアンスが出て、酸が高くて硬いワインが多かった。
しかし、地球温暖化の影響で2015年以降、以前のイメージのシャブリは、よっぽど安物以外、消滅したと言っても良いでしょう。
今では、ブドウの熟度が上がり酸も穏やかになり、柑橘より、桃やわずかにマンゴーのニュアンスが感じられます。
うっかりするとコート・ド・ボーヌのワインかな?と思わせるけれど、完全にシャブリらしさを失っているわけではなく、アフターがキュッと引き締まっていくところが “らしさ”ですね。
これが今のシャブリのニュースタンダードなんです。
特に、2018、2019、2020年は地球温暖化の影響が強く出ている。
以前は涼しすぎてブドウの出来に苦労していた産地がいい結果を出していると言って良いでしょう。
シャブリがこれだけ変わってきているのだから、飲み手の私たちもアップデートし今のブルゴーニュの美味しさをきちんととらえる目を養わなければ、と思います。
ジュヴレ・シャンベルタンのエレガント回帰
ブルゴーニュワインといえば北の銘醸地ジュヴレ・シャンベルタン。キラ星のような生産者の中でも屈指の人気ドメーヌ、フランソワ・ルクレールにも変化の波は訪れている。
楠田:僕は、1970年代のルネ・ルクレール(現当主フランソワの父)の時代からこの生産者を追いかけ続けていますが、今まで飲んだヴィンテージの中で2019年が一番良いです。
2019年は2018年ほど暑くはなく、とても太陽に恵まれた年。
豊かな果物感と、しなやかで柔らかいタンニンに、伸びやかさのある酸が伴っている。
中には力強く濃厚で長期熟成に向くワインこそジュヴレという人もいますが、僕はそうは思いません。
ブルゴーニュの一番北の端にあるので、気候を考えれば涼やかなワインができてもいいはずです。ただ土壌的には谷にあたり、粘土が集まることからフルボディなワインが産まれやすい地形です。
ボルドーやローヌのワインが好きな人に勧めやすいと、フルボディなオークの効いたワインにする造り手が多かったのかなと。
特に、ロバート・パーカーをはじめとする濃いワインが好きなマスコミと飲み手に合わせてどんどん濃厚になっていった。
赤ワインじゃなくて、黒ワインになった生産者もいました。
しかし、2000年ぐらいから軽やかでエレガントなワインへの回帰が始まると、濃さ、強さという鎧を脱いで、ジュヴレの特徴の一つである粘土質のやわらかさ、膨らみがワインに表現できるようになってきたと思いす。
弟のフィリップ ルクレールとは真逆で、もともと濃厚でタニックなワインを造らないルネ ルクレールですが、フランソワの代になって果実がきれいに出てくるようになりました。
ジュヴレをこんなに早く、こんなに美味しく飲めるなんて思いもしませんでした。
良いブルゴーニュワインの選び方とは
楠田:今日、色々なワインを試飲しましたが、全てのワインがクリアで雑味がなくピュアで酸が伸びやかな印象でした。
ブルゴーニュワインにとって最も重要なのがこの点なんです。
美味しくしようとして、色々な要素を入れ込もうとすると濃くてパワフルなワインが出来ますが品の良さは失われてしまう。
良いブルゴーニュワインは、ダメな要素をいかに抜くかという引き算のワインなんです。
これは、優れたセレクターでないと探し出すのは至難の技。
そういう意味で、僕は「Vin Voyage」ナビゲーターであり、インポーター社長でいらっしゃる深山さんの選ぶワインを信頼しているんです。
また、今日のワインはどれも管理が素晴らしい。
輸送によるダメージを全く感じさせない。倉庫での温度・湿度管理が見事だと思いました。
どの国のワインもそうですが、中でもブルゴーニュワインは繊細なため管理が明暗を分けるので、選ぶときにはその状態管理に細心の注意が必要です。
目利きが確かで、管理も完璧。
外れのない間違いのないブルゴーニュワイン。深山さんの扱うワインはそんな印象です。
楠田卓也さんインタビューダイジェスト版(約3分)
ブルゴーニュワインへの旅、始めましょう!