レストランの厨房で一つひとつ丁寧に作られ、日本ではなかなか味わえない、多種多彩な本場のパスタ料理を完全再現してお届けする「パスタ大好き!」では、美味しいパスタはもちろんですが、プロの料理人さえも知らない、郷土パスタのルーツが学べるのも魅力の一つです。
今回は「乾燥パスタ」のお話になります。
パスタの文化に触れたい方は、どうぞご覧ください。
乾麺パスタとは?
パスタの起源には諸説あり、古代ローマ以前からギリシャやアラブ、或いはユダヤから伝わったとも言われ、ラザーニァの原型などの生パスタを長らく食していた。
時代の推移とともにヴェルミチェッリやマッケローニなどへ発展し、次第に乾燥させてから茹でる手法が生まれ、9 世紀にシチリアに入植したアラブ人の技術によって「乾燥パスタ」は大々的に生産されていくようになる。
その技術は海洋国家ジェノヴァやナポリへと伝わり、イタリアはそうして他の追随を許さない乾燥パスタ大国への道を進んで行った。
ルネサンス期以前まではパスタは職人による手作業で作られ、とても高価なものであったが、16、17 世紀にはパスタ製造の為の捏ね機や押出し機が誕生し、急激に庶民へと広まった。
19 世紀の産業革命によって電力を利用した機械が普及してからはさらに飛躍的に工程、形状の多様化、生産量が高まる。
20世紀に入ると製造の機械化が完了し、乾燥パスタはイタリアにおける食文化の絶対的な象徴の一つとなり、世界へ向けて一大産業としての地位を不動のものとしていったのである。
パスタはほぼすべてのものが「練り」「成形」の工程を踏むが、文字通り乾燥パスタには最後の「乾燥」の工程があり、それが生パスタとの最大の違いであることは言うまでもない。
乾燥パスタにおいてはこの「乾燥」こそが最も重要かつ難しい作業とされ、現在のような乾燥設備による安定した品質が作られるようになったのは20 世紀頃からとつい最近で、それまでは天日干しや室内干しなどの様々な方法での乾燥が土地ごとに行われていたため、気候や地域、職人の技術によって品質が大きく左右されていた。
とりわけ気候に恵まれた南イタリア一帯やリヴィエラ海岸では、天日干しが主流となり高品質な乾燥パスタが作られていた。
なかでもカンパーニア州ナポリ近郊地域は、温暖な気候、豊かな水、途絶えることのない海と山の風、という絶好の環境を最大限に活かし、イタリア国内はおろか世界から最高品質として評価されるようになり、現在もその名声は変わらない。
ダイス(型)の話
また乾燥パスタに欠かすことができないのが押出し機とダイス。
これらが誕生していなかったら、これほどまでにパスタが日常食として普及することはなかっただろう。
ダイスとは、練った生地が押出し機の筒の中で押され、最後、たくさんの穴が空いた口金を通るまさにその箇所を指すのだが、それまでの紐状のロングパスタの他、人の手では出来ない様々な形状のパスタを製造可能にして行った。
ダイスには、ブロンズ製とテフロン製の2 種類があり、それらの基本的な違いや特徴を知っておくとパスタの世界がより楽しいものとなるだろう。
ブロンズ製ダイスは、いわば伝統的な手法のもので、これで作られるパスタは押し出される際の摩擦により表面が多孔質となる。
ブロンズ製ダイスのものは白い粉がふいたように表面がザラザラ、と言われる所以だ。
またその為に乾燥の際には低温で長時間の工程をとり、ひび割れを防ぐ必要がある。
元々は木製で作られ始めたダイスがブロンズ製になっていったのは、もちろん耐久性は然りだが、他の金属に比べて生地のph 値の影響を受けづらい、また逆に生地に影響を与えない材質であったことも大きな要因だ。
一口にブロンズ(銅)と言うが、他にも真鍮製や、現在ではこれらとアルミとの合金などのものも色々とあり、メーカーでも様々な工夫や研究が進んでいる。
手間も時間もかかり、生産効率も悪いがその反面、粉の風味も豊かで、ソースの絡みの良い質感となる。
現在もナポリの伝統的な乾燥方法など、アルティジャナーレと呼ばれる職人の技術で作られるものはこちらが多く、大手メーカー製も含め総じてテフロン製よりも価格が若干高めとなる。
次に、20世紀前半に誕生したテフロン製ダイス、こちらで作られるパスタはやはり生地とダイスの摩擦が少ないため表面が滑らかで艶があり、そのため原料となる硬質小麦の黄色い色彩が鮮やかだ。
ある意味ブロンズ製での工程の弱点を克服した結果でもある為、高温、短時間乾燥での製造が可能であり、製造量も多くできる。
乾燥パスタの広まりに拍車をかけた革新的な発明だったとも言えるだろう。
イタリアの家庭でも比較するとよく食されているのはテフロン製のものでもあり、日本においても戦後から作られてきたのはこちらのタイプであった。
ツルっとしてコシがあり、喉越しが良いといわれるのがテフロン製ダイスのパスタの大きな特徴の一つで、比較的良心的な価格のものからメーカーによるプレミアム的なものなど、形などだけでなくバリエーションも実に豊かだ。
※小池 教之 (オステリア・デッロ・スクード) 著
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