レストランの厨房で一つひとつ丁寧に作られ、日本ではなかなか味わえない、多種多彩な本場のパスタ料理を完全再現してお届けする「パスタ大好き!」では、美味しいパスタはもちろんですが、プロの料理人さえも知らない、郷土パスタのルーツが学べるのも魅力の一つです。
今回は「乾燥パスタ後編」になります。
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パスタの文化に触れたい方は、どうぞご覧ください。
ナポリの伝統的な乾燥方法とは?
乾燥パスタ製造に最適と言われる南イタリア産のものはまさしくかねてより高品質のものを生み出しているが、そこには恵まれた気候の恩恵だけでなく、職人の洗練された技量が大きく仕上がりに反映している。
ここでは中でも知識と経験が豊富なナポリの伝統的な乾燥方法を解説しよう。
とは言え、その製法は何もナポリに限ったものでは無く、乾燥パスタ製造という事において言えば地域を問わず共通した手法でもある。
だが、数ある乾燥パスタの産地を押しのけ、ナポリが乾燥パスタの聖地と呼ばれる理由とイメージを足早ではあるが捉えて頂けると幸いだ。
ちなみにここでいうところのナポリとはナポリそのものだけではなくその近郊の名産地グラニャーノ、トッレ・アンヌンツィアータ、トッレ・デル・グレコなども含めたものとして踏まえてもらいたい。
生地の「練る」「成形」の工程を経て出来上がったパスタ(ここでは乾燥技術としてより難しいロングパスタを例にとる)は、即座に専用の竿や棒にU字で下に垂らすようにズラリとひっかけて棚に並べられる。
第一の工程ではそれらの表面をまず天日干しで乾かす。
第二の工程では、それらを今度は適度に湿度が保たれた日陰や室内の涼しい場所へ移し休ませる。
第一、第二の工程を適時繰り返し、第三の工程で最終的な乾燥を施す。これが大まかな昔ながらの乾燥パスタ製造の流れであり、繰り返すがナポリだけの製法ではない。
ではナポリでは何が違うのか?
まず第一の工程を見てみる。
乾かすといっても、ただ天日に当てっぱなしで表面から内部まで乾かしていくだけのような単純作業ではない。
強い日差しでの急激な乾燥はひび割れや乾燥のムラ、また外側だけが硬くなりあたかも十分に乾燥したかのように見えて、内側に残された逃げ場のない水分による腐敗など、様々な問題が生じる。
そこで重要なのが適度の湿度を保った風の存在で、この一帯に吹くナポリ湾からの風が急激な乾燥から守ることで、結果、生地にダメージを与えること無くゆっくりと表面から内部へと乾燥してゆく。
第二の工程では涼しい場所で休ませている間に、乾燥して硬くなった部分がパスタ内部の水分を浸透圧の効果で吸い出すようにゆっくりと表面の方へ引き戻す現象を促し、生地全体に均一な水分と弾力性を回復させる。
この二つの工程を適時適度な回数を行うことで、ゆっくりとパスタから全体的に水分を減らしていくように乾燥させてゆく。
十分な強度に達したところで第三工程として最終的に完全な乾燥を完了させる、という仕組みだ。
工房が立ち並ぶ街中には棚に干されたパスタが道端狭しと並んでいた当時の姿を記録した資料も現存していて、その光景は実に圧巻である。
そしてこの一連の工程の随所には決して恵まれた気候に依存してあぐらをかくことの無かった誇り高き職人たちの卓越した経験、知恵、判断、技術の粋が活かされてきた。段階段階における適切なその施しが、他地域との決定的な製法の違いなどでは無い、そうしたくても出来ない、とも言い替えられる地の利を見極めた精度の高い仕事が、最高品質と称される乾燥パスタを生み出すナポリの最大の理由であり、ナポリならではの伝統的な乾燥方法と位置付けることができる。
一方、日照量や気温が低く、湿度が高い北イタリア(リグーリアを除く)やフランスなどでは、天日干しに向かず、室内で暖をとり乾燥をさせていたりしたが、ナポリや南イタリアのような高品質なものを製造するには至れず、天日干しに相当しうる人工的な乾燥方法を日々模索していたほどだ。
「見てから死ね」または「見ずして死ねない」と称され、他地域からすれば羨むような奇跡ともいえるナポリの気候風土の恩恵。燦々と降り注ぐ太陽と、眼前の紺碧の海からの風、山からの吹き下ろす風。湧き出る水源とそれを動力とした製造の質と量の向上と安定。
こうした偶然の産物を必然へと変えて発展させていったナポリの乾燥パスタ。
道化師プルチネッラや喜劇王トトが表現した「Mangia Maccheroni マンジャ マッケローニ(マカロニ喰い)」の世界観の背景の一つがそこにある。
※小池 教之 (オステリア・デッロ・スクード) 著
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