ホテルの部屋に入ると同時に、全く違う空気の流れ、色彩と光が変化する、そんな空間的飛躍にただただ感心することがある。
ジェームズ・アイヴォリーが映画化した「眺めの良い部屋」の舞台はフィレンツェだが、このホテルの部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、このタイトルが思い出された。
部屋は小ぶりながら、中庭に向かって壁一面に広がる大きなガラス戸は贅沢に布地が使われたカーテンのドレープで縁取られている。その向こうには錬鉄の枠を持つ小さなバルコニーがあり、庭の向こうには遠くまで幾重にも重なる葡萄畑の波が広がる。
元が修道院なのだから、一つ一つの部屋が画一的に作られているわけではない。かつて修道士たちが寝泊まりしていた小部屋や馬小屋は、個性的な装飾が施され、様々な用途にあう合計30の客室に改装されている。
レセプションでチェックインをしていると、アイリッシュセッターの看板犬ルイーズが日向ぼっこしていた。
このホテルは愛犬家にも好まれる。部屋によっては「ペット可」で、プライベートの庭を持つ地上階の部屋もある。
朝食会場にもディナーのレストランにものびのびとした間隔のテラス席があるし、手入れの行き届いた広大な庭は圧巻としか言いようがない。
様々な植物、大木がそびえ、6月ともなれば百花繚乱。
聞けば、樹齢100年の樹も多いという。
イチゴノキ、オリーブ、カラマツ、ブナ、ニレ、オークの樹。その木立の創る木漏れ日の中での昼寝や食前酒など、どんなデザインもインテリアもかなわない、自然の力の贅沢さだ。庭の中を歩けば歩くほど、新しい発見がある。
ハンモックやベンチが随所に置かれ、自然が作る光と影は時間によってその形を変える。
自分が移動することによって、広い空間に自己を解き放つことも、閉ざされた空間で瞑想することも可能なのだ。
カウンターバーに自分のワインを持参して、ちょっとした即席アペリティフを楽しむことも、芝の上でピクニックを楽しむこともできる。
子供の為のブランコや滑り台、遊具も全く自然に溶け込むように設置されていた。ここでの楽しみ方は、ゲストの感性、自主性に委ねられるところもあるし、大人も子供も動物も楽しめることまちがいない。
また、ここには上質なスパが併設されていて、希望があればワインセラピー、つまり、葡萄という植物の持つ力を生かしたトリートメントをうけることもできる。
大樽風呂の中に浸かったり、樽サウナの中で温まったりできる施設も備えているのだ。エステで使われる化粧品販売もしていて、ヘーゼルナッツや葡萄の種から抽出された油は、整髪、ボディーオイルなどに使われていた。