ファモーゾはロマーニャ地方の土着品種で、ラヴェンナからサン・マリノにかけての限られた地域で栽培されている。20年ぐらい前までは全く知られていない品種だったが、10年ほど前から注目を集めるようになった。
アロマティックな品種で、トロピカルフルーツやドライフルーツの甘い香りに、バラや柑橘類が混ざり、香りがとても華やかだ。口中ではフレッシュで、細身で、酸が生き生きとしているので、飲みやすい。後口に感じるアーモンドのアロマとほのかな苦みがとても心地よい。軽やかなスパークリングワインにするとアペリティフに最高だし、白ワインに仕上げると魚介類との相性が最高だ。
とても魅力的な品種だが、一時は絶滅の危機に瀕していた。第二次世界大戦後はファモーゾのように際立ったアロマを持つ品種よりも、トレッビアーノのようにニュートラルで、あまり個性のない品種が好まれたからだ。「アドリア海のモスカート」「ロマーニャのゲヴュルツトラミネル」などと称えられるファモーゾの強いアロマは、大量生産時代には受けなかったのである。21世紀に入った頃から、他にはない個性を持つ品種に注目が集まり、絶滅寸前だったファモーゾは救われた。
ちょうど15年ほど前にロマーニャ地方のワインの試飲会に参加した。気軽な試飲会で、ブースを回って生産者と話しながら自由にワインを試飲するというものだった。そこでファモーゾに初めて出会った。個性的なアロマとみずみずしい飲み口が気に入ったので、その旨を述べると、若い生産者がこの地元品種への熱い想いを語ってくれた。結構「緩い」試飲会だったので、気に入ったファモーゾのグラスを中庭に持ち出して、モルタデッラを挟んだピアディナと一緒に楽しんだ。
ピアディナは小麦粉を水で溶いて、塩、ラードを加え、クレープのように薄く焼いたもので、生ハム、サラミ、チーズなどをロールケーキのように巻いて食べるロマーニャ地方の庶民的スナックだ。初めて出会ったファモーゾのウキウキとするようなアロマと軽やかな飲み口が、モルタデッラの素朴な味わいととても合っていた。華やかなアロマの奥にどこか素朴で、温かい味わいが残っているファモーゾが好きだ。このあたりの出身だった映画監督フェデリコ・フェッリーニが描く陽気なロマーニャ人を思い起こさせてくれて、どこか懐かしい気持ちがするのである。
宮嶋 勲 = 文
ワインジャーナリスト。1959年京都生まれ。東京大学経済学部卒業。83年から89年までローマの新聞社に勤務。現在イタリアと日本でワインと食について執筆活動を行う。イタリアではエスプレッソ・イタリアワイン・ガイドの試スタッフ、ガンベロ・ロッソ・レストランガイド執筆スタッフを務める。日本ではワイン専門誌を中心に執筆するとともに、ワインセミナーの講師、講演を行う。BSフジ「イタリア極上ワイン紀行」の企画、監修、出演も務める。