
プリミティーヴォは豊潤な果実味を持つワインを生む。
赤い果実、プラム、黒イチゴにシナモン、黒胡椒、タバコ、カカオが混ざる香りは深みがあり、口中では力強いと同時に包み込むような温かさを感じさせる。
タンニンは甘く、口当たりはやわらかい。濃厚なのに飲みやすいという不思議なワインだ。丘陵地帯のジョイア・デル・コッレでは優美なワインとなり、サレント半島のマンドゥーリアでは雄大なワインとなる。
長期熟成能力が高いが、タンニンがやわらかいので、若い段階から楽しめる。熟成により落ち着いたプリミティーヴォも素晴らしいが、若いプリミティーヴォの荒々しさも魅力的だ。
長年にわたりバルクワインとして重宝されてきたが、収穫量を抑えて、注意深く醸造すると素晴らしい単一品種ワインとなることがわかり、この20年ほどで一気にブレイクした。
3年前にアメリカのホワイトハウスが4320本(約663万円)という大量のプリミティーヴォを注文したことが話題になったが、南イタリアならではの濃い赤ワインは国際市場でも大人気である。

イタリアの最東端に位置するサレント半島は、ギリシャをはじめとする東方への門として古代から大いに栄えた。
今はブドウ、オリーヴ、野菜などの栽培が盛んな農業地帯で、とてものんびりとしたところだ。夏になると美しい自然を求めて多くのバカンス客が押し寄せる。
赤土の平野に大きな樹のようなオリーヴが延々と続いているのは壮観である。マンドゥーリアにはアルベレッロ仕立ての樹齢80年を超える古木の畑がまだ多く残っている。
収穫が終わりかけていた秋の日にマンドゥーリアの生産者を訪ねたことがある。
ロゼ、軽めのもの、パワフルなもの、樽熟成によるものなど、いくつかのプリミティーヴォを試飲して、一緒に庭で昼食を取った。穏やかな陽光と暖かい海風を感じながらのランチは最高だった。
仔羊のローストが絶品で、唐辛子の辛さとハーブのアロマが南イタリアを感じさせてくれた。テーブルにはいくつかのプリミティーヴォが置かれていたが、若いプリミティーヴォが印象に残っている。
肥沃な大地と豊かな太陽が生み出す濃厚さの奥にどこか海を感じさせるニュアンスがあり、それがワインに爽やかさを与えていた。添えられた野菜の煮込みと硬めのパンがとても美味しかった。
ゆったりと流れる時間がとても贅沢に思えた。素朴だが豊かなプリミティーヴォはまさにプーリアを象徴する品種である。
宮嶋 勲 = 文
ワインジャーナリスト。1959年京都生まれ。東京大学経済学部卒業。83年から89年までローマの新聞社に勤務。現在イタリアと日本でワインと食について執筆活動を行う。イタリアではエスプレッソ・イタリアワイン・ガイドの試スタッフ、ガンベロ・ロッソ・レストランガイド執筆スタッフを務める。日本ではワイン専門誌を中心に執筆するとともに、ワインセミナーの講師、講演を行う。BSフジ「イタリア極上ワイン紀行」の企画、監修、出演も務める。