リボッラ・ジャッラは勢いのある酸が魅力の品種である。
その白ワインは香りが繊細で、藤の花やアロマティックハーブを想起させ、味わいはシャープで、持続性がある。
様々なタイプのワインに適応する品種で、ステンレスタンク熟成によるフレッシュな白ワインでも、バリック熟成による濃厚な白ワインでも、シャルマ方式の軽やかなスパークリングワインでも、複雑な瓶内二次発酵スパークリングワインでも、重厚なオレンジワインでも見事にその実力を発揮してくれる。
派手なアロマを持つ品種ではなく、どちらかといえば控えめで、無口な品種だが、酸とミネラルに支えられたみずみずしい味わいは実に印象的だ。
リボッラ・ジャッラの故郷はイタリア北東にあるフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州とスロベニアにまたがる丘陵地帯だ。
イタリア側はコッリオ、スロベニア側はブルダと呼ばれているが、両方とも丘陵を意味し、住んでいる住民の多くはスロベニア人である。
戦争のたびに国境が変わってきた場所で、第一次世界大戦前はオーストリア=ハンガリー帝国に属し、その後イタリアとなり、第二次世界大戦後に分割が行われた。その結果3分の1がイタリア、3分の2がユーゴスラビアの領土となったが、戦後混乱期に地図上に恣意的に国境線を引いたために、家の真ん中を国境線が通るといった信じられない事態となった。
著名な生産者グラヴネルもワイナリーはイタリアに残ったが、所有している畑の一部はスロベニアに残った。
冷戦時代は特別の許可を得て、スロベニアに耕作に出かけていたそうだ。コッリオもブルダも本来は一つの地方で、アドリア海の温暖な気候とジューリア・アルプスの冷涼な気候の恩恵を受け、ポンカと呼ばれるミネラル豊富な土壌を持つ。
リボッラ・ジャッラに見られる鮮明なミネラルはポンカ土壌から来るものである。
私は素朴で美しいブルダが大好きで、夏の終わりによく訪れる。
フリウリの生ハムは有名だが、ブルダの生ハムもとても美味しい。
かすかに燻製香を感じさせるデリケートな味わいとリボッラ・ジャッラは最高のアペリティフだ。
リボッラ・ジャッラは、頑固でややとっつきにくいが、心温かいこの地の住民に似て、一度打ち解けると終生の友となってくれる品種だ。
何百年にわたり歴史に翻弄されてきた農民が愛し続けてきた品種なのである。
宮嶋 勲 = 文
ワインジャーナリスト。1959年京都生まれ。東京大学経済学部卒業。83年から89年までローマの新聞社に勤務。現在イタリアと日本でワインと食について執筆活動を行う。イタリアではエスプレッソ・イタリアワイン・ガイドの試スタッフ、ガンベロ・ロッソ・レストランガイド執筆スタッフを務める。日本ではワイン専門誌を中心に執筆するとともに、ワインセミナーの講師、講演を行う。BSフジ「イタリア極上ワイン紀行」の企画、監修、出演も務める。