ランブルスコは果実や花の若々しいアロマがチャーミングで、とても心地よいワインだ。
デリケートなので、サラミや生ハムの繊細な味わいを引き立てるし、酸がしっかりしていて、泡立ちに活気があるので脂っこい肉料理に合わせても口中をきれいにリフレッシュしてくれる。だからバターを使った濃厚な料理で知られるエミリア地方でずっと愛されてきた。
モデナが生んだ世界的テノールのルチアーノ・パヴァロッティは世界中どこに公演に行っても、常にランブルスコを欠かさなかった。モデナが生んだもう一人の英雄エンツォ・フェッラーリもランブルスコを生涯愛し続けた。
決して高いワインではないが、とても飲みやすく、毎日の食卓に絶対にあってほしいと思わせる魅力を持っているのだ。
産地であるモデナ、レッジョ・エミリア、パルマ、マントヴァは美食の地として名高いだけあり、魅力的なレストランやトラットリアが沢山ある。私もこの地方が好きでよく訪れるが、どこに行ってもランブルスコを飲むことが多い。
地元の料理に抜群に合うし、飲んでると寛げて、愉快な気分になるのである。飲む人に緊張を強いるのではなく、癒してくれるワインなのだ。
初春にマントヴァで飲んだランブルスコが思い出に残っている。仲間と街を散策していてアーケードの下に美味しそうなサラミ屋を見つけた。その場でパニーノをつくってくれるそうなので、店の前に置かれたテーブルで食べることにした。
豚の脂を5 〜6 時間揚げ、乾燥させて煎餅のようにしたチッチョリというマントヴァ名物のスナックも買い込み、ランブルスコを2本もらった。店も慣れたもので、手際よくボトルを抜栓し、人数分のプラスチックグラスを添えてくれた。
屋外のテーブルでチッチョリをつまみ、サラミのパニーノを頬張り、ランブルスコを飲んだ。そして楽しく話した。とてもシンプルな昼食だったが、これ以上の幸せはないような気がした。
ランブルスコの生き生きとした果実味と酸が脂っこいチッチョリをきれいに包み込み、上品な味わいのサラミに寄り添っていた。まだ肌寒い風と差し込む鮮やかな光のコントラストが本格的な春の訪れがそう遠くないことを教えてくれていた。
私にとってランブルスコは常に寛ぎと幸せをもたらしてくれるワインである。
宮嶋 勲 = 文
ワインジャーナリスト。1959年京都生まれ。東京大学経済学部卒業。83年から89年までローマの新聞社に勤務。現在イタリアと日本でワインと食について執筆活動を行う。イタリアではエスプレッソ・イタリアワイン・ガイドの試スタッフ、ガンベロ・ロッソ・レストランガイド執筆スタッフを務める。日本ではワイン専門誌を中心に執筆するとともに、ワインセミナーの講師、講演を行う。BSフジ「イタリア極上ワイン紀行」の企画、監修、出演も務める。