ドイツワイン通信講座は次のような方にオススメのコースです
・イタリアワインは一通り飲んだので、他の地域のワインを飲んでみたい方
・ドイツワインの中でも有名な甘口白だけでなく、赤ワインや泡も飲んでみたい方
・ドイツワインの“今、本当に使える知識”を学びたい方
・歴史・地勢・土壌・醸造など、ドイツワインを飲みながら“丸ごと体験したい”方
「きつねは木の枝に熟したブドウが一房垂れ下がっているのを見つけました。しかし、どんなに高く飛んでもブドウに届くことはありません。とうとうきつねはこんなことを言います。『ふん、どうせあんなブドウはすっぱいに決まってるさ』・・」。
イソップ童話「きつねとブドウ」の一節です。
『ドイツワイン通信講座』第4回では、この「きつねとブドウ」がモチーフとなったラベルが目印のベッカー醸造所がついに登場します!
ドイツワインファンだけでなく、ワインがお好きな方なら一度はこのラベルを目にしたことがあるかもしれませんね。
それもそのはず、ベッカー醸造所は、ドイツで最も権威のあるワインガイドブック「ゴーミヨ」にて7回連続(!)最優秀赤ワインに選出、またスイスのワイン専門誌Vinum(ヴィヌム)で最優秀賞を受賞と華々しい経歴をもつ実力派。
また、2016年にはJAL国際線ビジネスクラスに搭載されるなど、近年認知度が上がっている今注目の生産者なのです!
さて今回は、ベッカー醸造所がなぜそんなにスゴイのか?また、なぜ「あのきつねのラベル」なのか?そもそもベッカー醸造所があるファルツ地方とは一体どのような生産地なのか?などなど、しっかりと紐解いていこうと思います!
お相手はやはりこの方、ヘレンベルガー・ホーフ社の山野高弘さん。
現地で2年以上、ドイツワインの醸造工程全てに携わった経験をもとに綴られたテキストには品種、地勢、土壌などのお話はもちろんのこと、生産者との秘話が満載です。
『ドイツワイン通信講座』のテキストだけで公開しているお話も、今回特別に少しだけお見せしてしまいましょう!
その1:そもそもベッカー醸造所があるファルツ地方ってどんなところ?
川嶋:どの回も印象深いのですが、個人的に第4回は今までで一番好きな回でした。一言でいうと“ドラマチック回”でしたね。
山野:そうですね。ファルツ地方はかなり困難な歴史を歩んでいる分、華開いた時とのギャップがすごく大きいのだと思います。
川嶋:具体的にいうと、他の地域と比べてどんな困難があったのでしょうか。
山野:まず、着目したいのは位置ですね。他国との国境に接しているので、国境線の変動が激しく、複雑な歴史を歩んでいます。例えば、ファルツの最南端の畑はアルザス領に食い込んでいるんですよ。ベッカー醸造所も例外ではありません。
川嶋:それって、時代が時代ならかなり危険だったんじゃないですか?
山野:はい。1945年の終戦直後にはフランスとの国境線に鉄条網が張られ、マシンガンを持った衛兵が立っていました。その10年後には協定により、フランスの畑で収穫されたブドウを使用しても、ドイツで醸造すればドイツワインとして認められるようになったのですが。あとは、面積が大きいことも茨の道を歩む原因のひとつとなりました。

畑に置かれた国境線を表す石。
川嶋:意外ですね!普通なら、面積が広いとブドウもたくさん獲れて豊かになるというイメージを持ってしまいます。
山野:面積が広いということでブドウをどんどん作っていった結果、安価なワインが大量に出回ってしまったんです。特に、1971年のドイツワイン法改正直後はブドウの糖度による格付け全盛期で、高糖度、高収量、収穫時期の早い品種を多量に栽培した結果、産地としての名声は落ちていく結果となりました。
川嶋:ベッカー醸造所はそんな逆境の中、一体どんな風に立ち上がって行くのでしょう?
山野:それはテキストに詳しく書いてあるのですが(笑)、少しだけご紹介しましょうか。
川嶋:ぜひお願いします!
その2:なぜあのラベル?“きつねとブドウ”の意味とは?
川嶋:そもそも、なぜベッカー醸造所ではピノ・ノワールを造りはじめたのでしょうか。1973年の設立当時は先ほど説明いただいた通り“量産至上主義時代”で、栽培の難しいピノ・ノワールなどはあまり向かなかったように思われますが。
山野:はい。これは第1回のテキストでも学習するのですが、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)はシュペート=遅い、ブルグンダー=ブルゴーニュ地方、つまり“熟すのが遅いブルゴーニュのブドウ”という意味です。それに比べて例えばミュラー・トゥルガウなどは収穫時期も早く、量も多く採れるのでたくさん植えられていました。今でこそドイツ国内第三位の生産量を誇るピノ・ノワールも、当時栽培している農家は皆無に等しかったのです。
川嶋:うーん。それを聞いていると、ますますベッカー醸造所がピノ・ノワールを栽培したことはあまりに唐突な気がしてしまいます。
山野:確かにそうかも知れませんね。でも、もともとこの地域のピノ・ノワールは、中世にフランスの修道士たちがブドウ樹を持ち込み、素晴らしいワインが造られていたという史実があるのです。ですから、ベッカーさんが行ったことは決してでたらめなことではなく、理にかなっていたんですね。ただ、その道は私の想像をはるかに超えて困難でしたが。

ファルツのピノ・ノワールを“発掘した男”ベッカー・シニアさん。
川嶋:確かあのきつねのラベルは、そんなベッカーさんへの近所の人の悪口がもとになっているんでしたね。
山野:そうなんです。来る日も来る日も、売れるはずもないピノ・ノワールの樹を黙々と育てるベッカーさんを見て、「あんなものを育てるなんて狂っている」「ベッカーのブドウはすっぱくてまずい」と散々悪口を言われるんです。でも、ベッカーさんは揺らがなかった。あのラベルは、イソップ童話の『きつねとブドウ』に登場するきつねが、食べたこともないブドウを“すっぱいに決まっている”と決めつけて負け惜しみを言うように、『このブドウの本当の美味しさを知らない人は悪口を言うけれど、私はその価値を知っているのだ』という強い意志の表れなんです。
川嶋:そこまでしてピノ・ノワールに強いこだわりを見せるなんて、ベッカーさんによほどの信念があったのでしょうね。
山野:これも第5回のテキストに書かれているのですが(笑)、とあるワインを飲んだきっかけでベッカーさんはピノ・ノワールに情熱を傾けていくんです。
川嶋:うーん、どんなワインなのか気になってしまいますね(笑)。
山野:皆さまぜひとも、第4回テキストをお楽しみください!